新型コロナウイルスの影響により定時株主総会を基準日から3か月以内に開催できない場合について

Shareholder meeting

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、従業員の出勤を減らしている会社が多く、3月決算の会社が例年どおり6月に定時株主総会を開催するには、決算と監査が間に合わない可能性があります。法令・定款上、定時株主総会の開催を延期することは可能かどうか、可能だとしてどのような点に気を付ければよいか、日ごろ議事録を作成することが多い行政書士の立場から検討します。(本記事はより良い方法を考える一助とする目的で投稿しています。個別のケースについては専門家にご相談ください。)

事業年度は4月1日から3月31日までであり、次のような定款の定めがあるとします。

「定時株主総会は、毎事業年度の終了後3か月以内に招集する。」

「当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載または記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することのできる株主とする。」

「剰余金の配当は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載または記録された株主または登録株式質権者に対して行う。」

これによれば、6月30日までに定時株主総会を開催し、3月31日現在の株主名簿の株主が定時株主総会で議決権を行使し、期末配当を受けることになります。

このスケジュールで行うことが難しい場合に、たとえば9月に延期するとすると、次の方法が考えられます。

(A案)基準日を7月1日に変更して9月中に定時株主総会を開催する。

(B案)6月中に1回目の定時株主総会を開催し、継続会を9月中に開催する。

(C案)基準日を3月31日のまま変更しないで9月中に定時株主総会を開催する。

いずれが適法かという視点ではなく、関係者ができるだけ感染の危険にさらされないようにするため、かつ関係者が不測の損害を被らないようにするために必要であれば、いずれも適法であるという前提で、それぞれの案についてより問題が少ない方法で行うにはどうすればよいかを検討します。

(A案)基準日を7月1日に変更して9月中に定時株主総会を開催する。

これは、定時株主総会の開催を、定款で定められた事業年度終了から3か月以内の日を過ぎた時期に延期することを意味します。また、定款で定められた定時株主総会の議決権と期末配当の基準日は3月31日ですが、この基準日を7月1日に変更することを意味します。

定時株主総会の開催時期を定款で定めている場合であっても、その定款の規定は、天災等のやむを得ない事由により定められた時期に開催することができない場合にまで、その時期に開催することを要求する趣旨ではないと考えられます(法務省ウェブサイト令和2年2月28日付「定時株主総会の開催について」)。今回の新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、定時株主総会の開催を事業年度終了から3か月を過ぎた時期に延期することは、開催時期を定める定款の規定に反しないと考えられます。

基準日を変更することは、会社法124条2項に基づくものです。会社法124条2項は、会社が株主の権利の行使について株主名簿の基準日を定める場合には、株主が行使することができる権利の内容を定めなければならないこと、その場合の株主の権利は、基準日から3か月以内に行使することができるものでなければならないことを規定しています。これは、株主としての権利を行使する者と、権利が行使される日の実際の株主とが大きく異なることは、会社の運営上好ましくないことによるといわれています。たとえば、基準日の後、業界の将来予測に大きな変化があったとして、3か月後の株主総会の時点の株主なら今回は配当を見送ることもやむを得ないと考える場合でも、基準日後に株式を手放した者は、会社の将来よりも自分の配当を優先して株主総会で議決権を行使する可能性があり、基準日株主のうち多くの者が株主総会までに株式を手放している場合には、基準日株主は株主総会で、その日の実際の株主の判断とは異なる判断を下す可能性があるということです。

定款で、たとえば、定時株主総会は毎年7月に開催すると定められている場合に、定時株主総会の議決権の基準日を4月30日とすると定款で定めることは、会社法124条2項に反しませんが、基準日を3月31日とすると定めることは、124条2項に反することになります。この場合には、基準日の定めは効力を有しないとされています。A案の場合は、定時株主総会は6月までに開催することが予定され、基準日についての定款の定めは基準日を3月31日とするものですので、基準日の定め自体が効力を有しないことにはなりません。

このように定款で基準日が適法に定められている場合に、基準日から3か月以内に株主の権利行使日が到来しなかったときは、その基準日は失効するのかどうか、会社は権利行使日の前3か月以内の日に新たに基準日を変更しなければならないのかどうかについては、124条2項の規定からは明らかでありません。この点は、会社法の規定の解釈の問題となります。

定款で基準日が適法に定められている場合に、基準日から3か月以内に株主の権利行使日が到来しなかったときは、基準日は失効するという考え方があります。この考え方によれば、会社は新たな基準日を設定することができることになります。また、基準日は失効しないが、基準日から3か月以内に権利行使日を設けることができない事情が生じた場合には、会社は2週間前に公告することにより基準日を変更することができるという考え方もありえます。A案は、このいずれかの考え方に基づきます。C案は、基準日は失効しないという考え方に立つものです。

基準日から3か月以内に権利行使日が到来しなかったときは基準日は失効すると考える場合には、3か月の経過を待たずに基準日を変更することはできないと思われます。つまり、当初の基準日が失効して初めて、新たな基準日を設定することができることになります。定款で定められた基準日が3月31日である場合には、6月30日を過ぎなければ新たな基準日を定めることはできません。新たな基準日は7月1日以降とすべきことになります。

基準日は失効しないが、3か月以内に権利行使日を設けることができない場合には基準日を変更することができると考える場合、当初の基準日の株主は、基準日後に株式を譲渡しても、基準日に関する権利は譲渡人が行使することができると考えて、株式の取引をすることが予想されますので、公告するだけでなく、当初の基準日の株主全員に対して基準日を変更することを通知する必要があると考えられます。変更後の基準日の2週間前までに公告する目的は、変更後の基準日までに株式を取得した株主に名義書換をする機会を与えるためであって、基準日の株主に基準日の変更を知らせるためではありません。基準日が失効すると考える場合でも、当初の基準日の株主は、株主の権利行使日が到来しないまま基準日から3か月を経過したとしても、基準日が変更される可能性があることを認識するとは限りませんし、権利行使日が延期されるだけと考える株主もいるかもしれませんので、新たな基準日を公告するだけでなく、当初の基準日の株主全員に対して基準日を変更することを通知する必要があると考えられます。

なお、法務省ウェブサイト令和2年2月28日付「定時株主総会の開催について」によれば、基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに基準日を定め、基準日の2週間前までに公告する必要があるとされていますが、基準日から3か月を経過したときに基準日が失効するという考え方に基づいているのかどうか、あるいは基準日は失効しないがやむを得ない事由が生じたときは基準日を変更することができるという考え方に基づいているのかどうかは、この記載からはわかりません。また、剰余金の配当については、定款で定められた基準日の株主に配当をすることができない状況が生じたときは、異なる日を基準日と定めその基準日の株主に配当をすることもできるとされていますが、基準日の株主に配当をすることができない状況が生じたときとはどのような場合を指すのか、配当を決議する株主総会が配当の基準日から3か月以内に開催できない場合はその状況に当たるのかどうか、この記載からはわかりません。したがって、この法務省からのお知らせがA案を指しているのかどうかはわかりません。C案を排除するものではないと考える余地もあります。この点はC案で検討します。

A案によるときは、定款で定められた基準日である3月31日時点の株主であっても、4月1日以降新たな基準日までに株式を譲渡して名義書換をした者は、期末配当を受けられないことになり、不測の損害を被るおそれがあります。会社は、基準日後に株式を譲渡した者から、配当金相当額の損害賠償を求められる可能性があります。会社としては、やむを得ない事由により基準日から3か月以内に配当決議をすることができなかったため、会社法124条2項に基づいて基準日を変更せざるを得なかったのであるから、損害賠償責任を負わないと主張することになると思われますが、124条2項については、権利行使日が3か月以内に到来しないときでも基準日は失効しないという解釈も成り立つため、そのような主張が認められるかどうかはわかりません。

A案による場合、損害賠償請求を受けることをできる限り少なくするためには、基準日から3か月以内に定時株主総会を開催することができない可能性があることが判明した時点で、できるだけ早く、基準日株主全員に対して基準日を変更することを通知した方がよいと思われます。その可能性があることを会社が認識しえた時点以後、通知するまでの間に株式を譲渡した者に対しては、損害賠償責任を負う可能性があります。また、3月下旬の時点で、6月中に定時株主総会を開催することができない可能性があることを認識しえたと認められる可能性があり、基準日を変更するのであれば、そのことを基準日前に株主に通知するのでなければ、基準日後に株式を譲渡した株主に対して損害賠償責任を免れないとされる可能性もあります。なお、東京証券取引所では、基準日株主であっても権利落ちとなる可能性があることについて注意喚起がなされていますが(日本取引所グループウェブサイト2020年3月24日付「2020年3月期末の配当その他の権利落ちについて」)、これにより、会社が基準日株主に通知する必要がなくなるわけではありませんし、基準日後に株式を譲渡した株主に落ち度があることになるわけでもありません。

(B案)6月中に1回目の定時株主総会を開催して、継続会を9月中に開催する。

たとえば、6月中に定時株主総会を開催して役員の改選議案だけを決議し、9月中に継続会を開催して計算書類の承認と期末配当の決議を行う方法が考えられます。「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」により発表された「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」の中で、一例として挙げられている方法です。

あるいは、6月中に定時株主総会を開催して役員の改選議案と期末配当を決議し、9月中に継続会を開催して計算書類の承認を行う方法も考えられます。6月の配当決議は、この時点では2020年3月31日の決算が確定していませんので、2019年3月31日の決算に基づく分配可能額の範囲で行うものです。これが可能であれば、計算書類の承認を9月に延期しながら、3月31日の基準日株主に対して配当を行うことができます。これは、令和2年4月28日付で金融庁・法務省・経済産業省により示された「継続会(会社法317条)について」と題する指針の中で、例として挙げられている方法に基づくものです。

継続会という言葉は、会社法317条で規定される株主総会の続行の場合を指すことが一般であり、株主総会で続行を決議した場合には、あらためて招集手続をとることを要しないとされています(317条)。続行とは、議事に入った後、時間の不足その他の事由により審議未了のまま会議を一時中止して、後日引続き再開することをいうとされています。たとえば、審議が長引いて時間切れになった場合に、来週の同じ時刻に同じ場所で引続き審議を行うことを決議すれば、欠席した株主にあらためて知らせる必要はなく、提出されている委任状は継続会でも有効ということです。B案のように、初めから会議を2回に分けて行う場合や、2回の会議の間隔が数か月にわたる場合は、317条においては想定されていないと考えられます。317条の解釈においては、継続会についてあらためて招集手続をとる必要がないことを前提に、最初の会議が一時中止された後相当の期間内に継続会が開かれることが必要とされており、相当の期間とはあらためて招集手続をとるために必要な期間をいうとされていますが、これはB案には当てはまりません。B案は、317条の継続会に該当しないとしても、株主総会の開催方法一般の問題として可能と考える余地があり、その場合の要件は317条の要件とは別に考える必要があります。そこで、議論の錯綜を避けるため、以下では317条の継続会に当たるかどうかについては検討しないで、株主総会の開催方法一般の問題として可能かどうかを検討します。ここでは、317条の継続会に当たるかどうかにかかわらず、初めから2回に分けて株主総会を開催する場合も、2回の総会の間隔が数か月にわたる場合も、2回目の株主総会を継続会と呼ぶことにします。

定時株主総会は毎年一定の時期に開催されるものですが、今回の新型コロナウイルスの影響により、議題によっては株主総会までに準備が間に合わないことが予想されますので、準備が間に合う議題は予定通りの時期に審議し、間に合わないものについては準備ができ次第審議するということも、やむを得ないと考えられます。他方で、1個の株主総会を何回かの会日に分けて開催することは、株主にとって、すべての審議に出席できる可能性が減ることになります。また、株主は、終了した事業年度の決算を承認し、決算に基づいて配当を決議し、決算と配当の結果を踏まえて役員の再任等を承認するという順序で議決権を行使していると考えられますので、これと異なる順序で審議を行うことは、株主にとっては、判断材料が提供されないまま決議が行われることになる可能性があります。このように考えると、初めから定時株主総会を2回に分けて開催することも、その間隔が数か月にわたる場合も、その必要があり、株主が出席し適切に議決権を行使する機会を制限するものとならない限りで、許されるものと考えられます。株主が出席し適切に議決権を行使する機会を制限するものとなる場合には、招集の手続または決議の方法が著しく不公正なものとして、株主総会決議取消しの訴えに服する可能性があります。

会社の経営方針をめぐって株主間に対立がある場合には、反対派にとっては、単に時期を延期するのではなく、あえて2回に分けて行い、決算承認前に役員再任の決議を行うことは、著しく不公正な決議方法であると受けとめられる可能性もあります。経営方針をめぐる対立がある場合には、すべての議案を1回の総会で審議することができるのであればその方が望ましいと思われます。

役員改選または配当の決議を6月に行う必要がある場合には、その必要性があることを株主に説明する必要があります。役員の任期は定時株主総会の終結時までですので、定時株主総会の終結時が9月に延びれば、役員の任期も何もしなければ9月に延びます。それでも任用契約の都合などにより6月に改選する必要がある場合には、そのことを説明するべきです。また、株主が適切に議決権を行使する機会を確保するためには、2回に分けて開催する必要があることだけでなく、そのような開催方法をとったとしても、株主が判断するために必要な情報が提供されていたといえることが重要です。決算の承認をする前に、役員の改選議案を審議する必要がある場合には、事業報告だけでなく、決算の予測についても、できる限りその時点で提供できる情報を提供して説明する必要があります。

2回の株主総会の間隔が数か月にわたる場合には、株主が出席する機会を確保するため、継続会についても招集手続をとる必要があると考えられます。その場合、2回の株主総会は同一の定時株主総会の部分をなすため、会議を構成する株主は同一でなければならず、同一の基準日の株主に対して招集通知を発する必要があります。C案で説明しますが、基準日から3か月以内に権利行使日が到来しないときでも、基準日は失効しないと考えられますので、同一の基準日の株主に対して招集通知を発することが可能です。(なお、最初の総会が3か月以内に開催されれば、継続会は3か月を経過した日に開催することになっても、会社法124条2項に反しないといわれることがありますが、それは317条の株主総会の続行に該当する場合についてであって、B案には当てはまりません。)継続会の招集通知についても、定款で定められた基準日の株主に招集通知をすれば、通知漏れはないと考えられます。

初めの定時株主総会を6月に開催して役員改選の議案を決議し、9月の継続会で決算を承認する場合、2つの会議は1つの定時株主総会を構成しますので、役員改選の議案を6月に決議したとしても、任期が満了するのは9月の継続会の終結時です。役員変更の登記は、任期満了に伴う再任・新任・退任については、9月重任・就任・退任という記載になるものと思われます(法務省ウェブサイト「商業・法人登記事務に関するQ&A」)。なお、上記の「継続会(会社法317条)について」の中で、任期が今期の定時株主総会の終結の時までとされている取締役および監査役について、当初の定時株主総会の時点で改選する必要があるときは、当該時点をもってその効力を生ずる旨を明らかにすることが考えられるとされています。これはおそらく、最初の定時株主総会の議事録に、役員改選の決議と、継続会にて計算書類の承認を審議する旨の決議が記載されている場合であっても、定時株主総会が通常開催されるべき時期に最初の定時株主総会が開催された場合であって、役員改選は最初の定時株主総会の終了時をもって効力を生ずるものとすることが決議されている場合には、9月ではなく6月重任・就任・退任の登記をすることができるという趣旨と思われます。

(C案)基準日を3月31日のまま変更しないで9月中に定時株主総会を開催する。

定時株主総会の開催時期を定款で定めている場合であっても、その定款の規定は、天災等のやむを得ない事由により定められた時期に開催することができない場合まで、その時期に開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。この点はA案と同じです。

C案は、定時株主総会と期末配当を、基準日を変更しないで、基準日から3か月を経過した日に延期するものです。会社法124条2項によれば、会社が株主の権利の行使について株主名簿の基準日を定める場合には、株主の権利は基準日から3か月以内に行使することができるものでなければなりません。定款で基準日が適法に定められている場合に、基準日から3か月以内に株主の権利行使日が到来しなかったときは、その基準日は失効するのかどうか、会社は権利行使日の前3か月以内の日に新たに基準日を設定しなければならないのかどうかについては、この規定からは明らかでありませんので、解釈によって導く必要があります。定款で基準日が定められている場合に、基準日から3か月以内に株主の権利行使日が到来しなかったときでも、以下に述べるように、基準日は効力を失うものではないと解釈することができます。C案はこの解釈に基づくものです。

株主名簿の閉鎖の制度が存在した時代には、権利を行使する株主を確定するために、株主名簿の基準日を定める方法のほかに、株主名簿をある日から権利行使日まで閉鎖する方法も行われていました。基準日の場合には、基準日以降に株式を取得した株主も名義書換をすることができますが、名簿閉鎖の場合には、閉鎖日以降に株式を取得した株主は、名簿が再開されるまで株式の名義を書き換えることができませんでした。株主の名義書換を停止することを長期間にわたって認めることは株式取引に支障があるため、名簿を閉鎖できる期間は法律で3か月に制限されていました。基準日の場合は名義書換は停止されませんが、株主の権利を行使する者と権利行使日の実際の株主が大きく異なることは好ましくないため、基準日と権利行使日の間は3か月に制限されていました。名簿閉鎖の場合には、名簿閉鎖から3か月以内に権利行使日が到来しないときは、閉鎖を3か月でいったん打ち切って名簿を再開し、あらためて名簿を閉鎖して権利行使日を設ける必要がありました。名簿再開中に名義書換が行われるため、最初の閉鎖から3か月以内に権利行使日が到来しないときは、2回目の閉鎖時点の株主を、権利を行使する株主として扱わざるを得ませんでした。基準日の場合には、株主の名義書換が停止されるわけではなく、株主の権利を行使する者と実際の株主とが異なる弊害があるにすぎないため、名簿閉鎖の場合と同じように、基準日から3か月を経過するときは基準日を設定しなおさなければならないと考える必要は必ずしもありません。

基準日をいったん定めれば、その基準日を前提に株式の取引がなされますので、基準日を前提にして株式の取引した者が不測の損害を被らないようにする必要があります。基準日から3か月以内に権利行使日が到来しないときは基準日は失効するとすると、配当の基準日後に株式を譲渡した者は、配当を受けることができなくなります。会社が新たに基準日を設定すればその基準日の株主が、設定しなければ配当決議の日の株主が配当を受けることになります。株式の取引においては、決算期の株主が期末配当を受けるという観念が支配的であり、決算期を過ぎればいわゆる配当落ちの安い価格で取引がなされる取引慣行が存在しているため、基準日後に株式を譲渡した者は、不測の損害を被るおそれがあります。124条2項が、基準日と権利行使日の間は3か月以内でなければならないとする趣旨は、権利を行使する者と実際の株主とが異なる弊害をできるだけ小さくすることにありますが、やむを得ない事由により権利行使日が基準日から3か月を超える場合でも、つねにこの弊害を避ける必要が優先するとする趣旨ではないと考えられます。したがって、定款で基準日が定められている場合に、基準日から3か月以内に権利行使日が到来しないときでも、基準日は当然に失効するものではないと考えられます。定款で定時株主総会の議決権と期末配当の基準日が定められている場合には、基準日を新たに設定しないで、定時株主総会の開催と期末配当を、基準日から3か月を経過した日に延期することができると考えられます。

法務省ウェブサイト令和2年2月28日付「定時株主総会の開催について」によれば、剰余金の配当については、定款で定められた基準日の株主に配当をすることができない状況が生じたときは、異なる日を基準日と定めその基準日の株主に配当をすることもできるとされていますが、基準日の株主に配当をすることができない状況が生じたときとはどのような場合を指すのか、配当を決議する株主総会が配当の基準日から3か月以内に開催できない場合はその状況に当たるのかどうか、この記載からはわかりません。もし、定款で定められた基準日から3か月以内に配当決議ができないときは必ず基準日を変更しなければならないという趣旨ではなく、定款で定められた基準日の株主に配当することができるのであれば配当して差し支えないという趣旨であれば、C案と矛盾するものではありません。また、基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに基準日を定め、基準日の2週間前までに公告する必要があるとされていますが、もし、これは定時株主総会の開催時期を変更する場合の一般原則を述べただけであって、いかなる場合にも基準日から3か月を超える日に定時株主総会を行うことは許されないとする趣旨ではないとすれば、この点もC案と矛盾しません。たとえば、基準日株主に配当することが可能であれば配当してよいし、やむを得ない事由により配当決議が遅れる場合に、配当の基準日と定時株主総会の議決権の基準日を一致させる必要がある場合には、議決権の基準日を変更しないで、基準日から3か月を経過した日に定時株主総会を開催することも許されると考える余地があります。

C案による場合は、定款で定められた基準日の株主に対して招集通知を発すればよいことになります。また、定款で定められた基準日の株主に対して期末配当をすることになります。たとえば定時株主総会の開催を9月に延期する場合でも、会社は、定款で定められたとおり、3月31日の株主名簿上の株主に対して招集通知を発送すればよく、3月31日の株主名簿上の株主に配当してよいことになります。

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